IQをあげる方法
体内のあらゆる生理的機能と同様、脳にもできることには限界がある。鍵を置き忘れる。道に迷う。名前が覚えられない。こうしたことはどれも、認知能力の(小さな)失敗の現れだと、精神医学の専門家でBio-Kultの医学アドバイザーを務めるリチャード・デイ博士は言う。もし、もっと速く走りたい、もっと遠くまで泳ぎたい、もっと重いものを持ち上げたいなら、それを達成するために多くの人が実践してきた方法はある。が、筋肉や心臓血管と同じことが、脳にも言えるのだろうか? そして、もし言えるのだとしたら、どんなことをすれば、脳にとってのHIIT(ヒット)あるいは脳のブートキャンプになるのだろう?
「そうした質問に答えるには、まず、“脳パワー”とは何かを考える必要があります」と、デイ博士。「第一に、そして非常にわかりやすいのが、記憶力です。記憶には様々に異なるタイプがありますから、それ自体、複雑なものです。短期的と長期的、自伝的と手続き的などです。が、集中力や速さ、空間認識などもあります」
たくさんあり過ぎて圧倒されるかもしれないけれど、それほど努力しなくても脳パワー強化に役立つ実用的なステップはある。そこで、身体的健康と精神的健康の相互作用に特に関心を持つデイ博士が、いくつかアドバイスをシェアしてくれた。
1. もっと長く、より上質の睡眠をとる
「睡眠は非常に様々な健康に関わっています。が、大事なのは睡眠時間の長さだけではなく、種類や質も重要です。睡眠はレム睡眠(眼球が速く動く)とノンレム睡眠(速い動きを伴わない)に分けられます。ノンレム睡眠はほとんどが夜の早い時間に、レム睡眠は夜遅くか早朝に起こる傾向があります。レム睡眠もノンレム睡眠も、それぞれ異なる形で脳の機能を助けています。
ある研究では、リサーチャーが、実験の途中で90分間昼寝をした人としなかった人の名前を思い出す能力をテストしました。すると、昼寝をしたグループの人たちのほうが、しなかった人たちより20%能力が高かったことがわかり、“パワーナップ(昼寝)”の効果を明らかに示しています。同様に、夜、いい睡眠をとると記憶力が向上し、その日学んだことを確固たるものにすることが実験からわかっています。興味深いことに、ノンレム睡眠のほうが事実や数字を覚えるのに重要なこともわかっています」
2. 常によく運動する
「処理する速さも認知能力のひとつの考え方です。つまり、ある特定の知的作業をどのくらい速く実行できるかということです。一般的に、年齢を重ねるにつれて私たちの処理能力は衰えます。これは、脳の白質の量が減少して、ニューロン(神経細胞)に沿って、またニューロン間で情報を伝達するのが遅くなるためだと考えられています。興味深いことに、研究から、よく運動する人のほうが、歳を重ねても認知処理速度を維持できることがわかっています。ですから、体のためにワークアウトするのは、脳のワークアウトにもなるということです」
3. カプチーノは集中力を高める
「もうひとつ需要な認知機能に集中力があります。ひとつの事や物あるいは思考に意識を集中させる能力がなければ、何をするのも非常に困難になります。少しくらいボンヤリするのは普通ですが、集中力の欠如が問題になる人もいます。
30〜300mgのカフェイン(エスプレッソのシングルショットは75mgのカフェインを含有)を摂取すると注意力や警戒心、反応時間といった基礎的認知能力を高めることがわかっています。実際、カフェインは、認知や記憶、学習を促進する“向知性薬”として、世界一人気がある物質なのです」
4. 食べ物が体を作る
「栄養精神医学の分野は、メンタルヘルス(精神衛生)において食生活と栄養が果たす役割を理解することにフォーカスしています。メンタルヘルスには認知機能と密接に関係している面があります。アルツハイマーやパーキンソン病などの病気が認知機能に非常に深刻な影響を及ぼすのは明らかです。しかし、他に、鬱病なども記憶力や集中力に著しい影響を与えます。栄養精神医学は、食生活や栄養がこうした病気やこれ以外の病気にもどのような影響を及ぼすかについて理解することを目的としています。研究から、特定の食べ物が認知機能に影響を及ぼすことがわかっています。例えば、ポリフェノールが豊富に含まれる食品(ブドウやブルーベリーなど)は、認知機能低下を防ぐことがわかっています。臨床試験から、ポリフェノールを摂取すると年齢による記憶力の低下を改善し、若い成人の作業記憶や注意力を向上させることもわかっています」
5. 腸内細菌のことも忘れずに
「私たちの腸内微生物叢は、胃腸管の中に住む何兆個もの微生物の集まり。こうした微生物が健康や病気に果たす役割が、近年、文字通り何千ものの学術研究のテーマになっています。従来、腸内微生物叢は胃腸管の健康の点からのみ考えられてきましたが、それとは別の臓器も、腸内細菌叢の中で起こることが深刻な影響を受けることがますますわかってきており、脳もその例外ではありません。
腸内細菌は脳の成長に影響を与える化学物質を生成することがわかっていますが、多くの腸内微生物が実は脳が使っているのと同じ化学物質(神経伝達物質)を生成しているのです。腸が健康であることが、認知機能の健康を含め多くの神経的また精神医学的診断に重要であるとますます考えられるようになっています。
驚くことに、パーキンソン病の原因になるタンパク質の蓄積を減らす細菌の種があることもわかっています。健康な腸内微生物叢は一般に多様な微生物の群(コミュニティー)だと考えられています。腸内微生物叢を健康にするひとつの方法は、多様性とバラエティに富んだ食生活を維持すること。
それに加えて、生きた細菌やブドウ、ブルーベリー抽出成分、亜鉛などを含有するBio-Kult Mindのような、生きた細菌のサプリを摂ることを考える人も多くなっています。亜鉛は正常な認知機能に寄与し、酸化ストレスから細胞を保護することがわかっています。腸内微生物叢は臨床試験が急速に発展している分野で、腸と脳の関係は、腸内微生物叢の研究で注目される主要テーマのひとつです」
6. 本を読む
「IQは“素の”知性の評価で、一般的には静的測定と考えられていますが、最近の研究では厳密にはそうではないと示唆されています。エジンバラ大学で行われたある分析で、IQを上げるには、教育がもっとも一貫性があり着実で永続的な方法であることがわかっています。実際、ある学術的研究から、教育を1年増やすごとに、IQが1〜5ポイント上がることがわかっています。ですから、脳パワーを真剣にアップさせたいなら、もう一度教科書を読むのがいいかもしれませんね」